生まれてきた時よりも美しく  
 

 子供のころに学校の先生から「来た時よりも美しくして帰りましょう。」って言われませんでしたか。

 僕が小学生のころ、少年の家で2泊3日の体験学習を行い、最終日にその言葉を聞き、部屋を始め使った場所をほうきではいたり、床を拭いたり、掃除して、きれいにしてから帰ったのを覚えています。

 大人になり、山登りをするようになってから、僕はふと小学生のあの日のこと、そしてその言葉を思い出し、キャンプしたところを離れる際は、必ずテントを張ったその周辺を掃除をシテから離れるようになりました。

 子供のころの記憶ってふとした時に蘇ってくるものです。雨降りの中カッパを着てのオリエンテーリング。全部ポイントをチェックできていなかったこと…。夜のキャンプファイアで、みんなで踊りを披露し、ずいぶんと盛り上がったこと。

 そんなことはさておき、僕たちみんな子供のころに、あいさつと同様に「来た時よりも美しく」ってことを習ったと思います。あるいは「立つ鳥跡を濁さず。」なんて言葉を付け加えられたかも知れません。

 けれども僕らの多くはどうやらその言葉を子供から大人になるにつれ、どこかに置いてきてしまったようです。街を見てください。川を見てみてください。海を山を見てみてください。そこには煙草の吸殻から、空き缶、ペットボトルと日常的に使われているものから、果てはテレビに冷蔵庫に、車なんてものまでが捨てられています。

 僕らはいつの間にか、ものを買っては捨て、また買っては捨てるということを日常生活の中で当たり前としてしまいました。かつて子供のころ僕は母親が古くなった布団を打ち直すということしていたのを覚えています。けれども今ではそんな光景は見たことがありません。この数十年間で修理する、再利用することは減り、古くなったら処分することが当然とされるようになりました。電気製品など壊れたので修理しようとすると、修理するよりも買い替えた方が安上がりです。そしてその壊れたものは時に海に山へと捨てられてしまう…。

 僕らは生まれてこの方、一体どのくらいのモノを消費し捨てていったのでしょうか。それはきっと想像もできないくらいの量なのでしょう。その量を目の前に置いてみると、小さな山ができるかもしれません。そしてそれらのうちのどれぐらいの量が、無駄なものだったのでしょう。

 「来た時よりも美しく」この言葉の前に、「生まれて」という言葉を付け足すと、「生まれてきた時よりも美しく」となります。人間この世界に生まれてくるときは、何も持たずに、裸のままで誕生してきます。そして死ぬ時、あの世にはいくら生きている時に多くのモノを手に入れ自分のモノとしたとしても、何一つ持ち帰ることはできません。持ち帰ることができるのは思い出ぐらいじゃないでしょうか。

 思想家のサティシュ・クマールは次のように言っています。「地球は『自分たちのもの』ではなく、未来からの『借りもの』である」と。そして、「地球を、借りた時より、よい状態にして返す。それが責任である。」と。

 現代人はこの責任を果たしているでしょうか。もうずいぶんと前にこの責任を放棄してしまったと思います。地球は毎年毎年その美しき姿を破壊されており、地下資源は掘りつくされ、川や海は汚され、大地は砂漠化する、あるいはコンクリートで塗り固められ、大気も汚染されています。そして今や地球上には本来存在しない放射性物質プルトニウムさえ、まき散らされている状態です。改めて考えてみると、僕たち自身は今や汚染の中で生活していると言っても過言ではないでしょう。

 もし、この「生まれてきた時よりも美しく」ということを1人ひとりが実践したとしたらどうでしょう。ある人が生まれた時の地球の環境度が4だったとし、その人がなくなるときには5になっていたとしたら・・・。地球はどんどん美しくなります。人が生まれてくるたびに美しくなる地球を想像してみてください。素敵だと思いませんか?そして何よりも未来の子供たちへ誇りを持ってつなげていける。

 もしひとり1人が「生まれてきた時よりも美しく」という意識で生きていくようになったならば、地球はどんなに喜ぶことでしょう。地球の使命とは「より多くの生命を育むこと」。地球は人間に感謝するに違いありません。地球が人間をパートナーに選んだことを誇りに思うでしょう。そしたら地球は宇宙の中の優良星となることができるでしょう。

 さあ、小さなことからで構いません。ほんのちょっとしたことからで構わないので、意識をそこにもっていきましょう。そしたら、やがてそれはだんだんと大きくなっていきます。もしかするといつかはムーブメントとなるかもしれません。1人でもその意識を持つ人が増えていったならば、きっとこの地球はまた、美しき星へと戻っていくでしょう。

 「生まれて来た時よりも美しく」~それはあなたの意識の中にあります。~




参考文献:「今、ここにある未来」 サティシュ・クマール with 辻 信一
 

 
 
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